「不動産業ビジョン2030」に見る10年後の不動産業 ③
前回、前々回に引き続きまして、国土交通省の社会資本整備審議会産業分科会不動産部会が昨年発表した、『不動産業ビジョン 2030』についてお話致します。
今回は、これまでの内容を踏まえて、2030年をターゲットとした不動産業(賃貸業態)の将来像・政策課題をまとめとしてお伝え致します。
・賃貸業態の将来像・あり方
●多様化する借り手側のニーズを的確に把握し、「不動産最適活用」を促していく。
●建設投資を巡るトラブルの多発を踏まえ、オーナーが新たに賃貸住宅を供給しようとする際には、市場ニーズや賃料収入の減少等による事業リスクに関する情報がオーナーに適切に提供される環境を整備する必要がある。
●賃貸住宅は、住宅確保要配慮者、急増する単身高齢者、外国人など多様な世帯にとっての住まいの確保といった観点から重要な役割を担っていることから、賃貸住宅のオーナーは、居住者に良質な居住空間を安定的に提供する責務を負っていることを十分理解する必要がある。
⇒前回触れた、市場環境の変化にいかに対応していくか、という点が賃貸業態における中心的なテーマとして集約されることがわかります。また、昨今報道されている賃貸建物の不備やシェアハウスのサブリース破綻などを防ぐ体制づくりが急務であるといえるでしょう。
・2030年に向けての重点的な賃貸業態の政策課題
(1)心理的瑕疵を巡る課題の解決
住宅ストックが増加し続ける状況課下において、既存住宅市場の活性化が不可欠であるが、その実現を阻害しかねない要因として、昨今、過去に物件内で自殺や事件があつた事実などいわゆる「心理的瑕疵」を巡る課題をどのように取り扱うべきかが課題となっている。このため、宅地建物取引業者の説明実務も踏まえた適正な情報提供のあり方を検討し、取引関係者の利益確保が図られることを前提に、不動産流通を促進する必要がある。
⇒入居者募集業務を行う弊社としても、この点は特に関心が高く、とりわ
けこうした物件における入居者募集にあたっての事実の告知をどのようにすべきか、難しい判断を求められています。告知について一定のルールが整備されることを強く期待しています。
(2)安心・安全な不動産取引の実現
不動産業が持続的に発展し、更なる信頼産業としての地位を確立するためには、第一義的には、不動産業に携わる者による法令遵守、コンプライアンスの徹底等が根源的に重要となる。とりわけ、近年、サブリース契約を結んでいる賃貸住宅の家主に対する家賃保証を巡るトラブルが社会問題化していることを踏まえ、こうしたトラブルの実態を正確に把握しつつ、現行の国土交通大臣告示に基づく賃貸住宅管理業者登録制度のあり方について検証の上、中小規模事業者に配慮し、法制化も視野に入れた検討を進めるべきである。
⇒サブリース形態で賃貸管理業務を行う弊社としても、特に慎重な対応が求められています。オーナー様の利益を守る姿勢を常に持ち続けて、場合によってはサブリース形態のデメリットまで踏み込んだ情報提供を行うなど、オーナー様から信頼される賃貸管理会社を目指していかなければならないでしょう。
(3)高齢者による安全・円滑な不動産取引、管理の実現
高齢化の進展により、意思能力が不十分な者などによる不動産取引や管理の機会が増大することが見込まれるため、こうした場合における安全かつ円滑な取引、管理の実現に向けた施策の検討が必要である。
(4)外国人向け不動産取引の円滑化
グローバル化が進展する中、外国人との不動産取引機会が増加すると見込まれる。人口減少が進展する中にあっても不動産業の継続的な発展を確保するためには、こうした新しい需要を取り込むことが重要であるため、外国人が暮らし、働きやすい環境づくりを不動産業が積極的に支えていくことが期待される。
このため、生活習慣や取引慣行の違いといった要因により近隣住民や取引当事者との間でトラブルが発生しないよう、外国人を相手方とする不動産取引に関するガイドラインの普及など不動産業者が外国人に適切に対応できるよう必要な環境整備を進める必要がある。
⇒単に高齢者や外国人を受け入れるだけではなく、親族や勤務先・留学先との連携・協力を強めること、母国語で入居者とコミュニケーションがとれる態勢をつくることなど、できる工夫を行って、オーナー様も安心して貸し出せる状況となることが必要でしょう。
3回にわたり、賃貸業態の現状や市場変化の状況、10年後のあるべき姿をお話し致しました。現在、賃貸業態が大きな課題を抱え、激しい市場環境の変化にも対応しなければならないという現実をご理解頂けたのではないでしようか。
厳しい環境を乗り越えて、より安定的に賃貸経営を続けていくためにも、これまでの慣習などにとらわれない発想の転換を積極的に行うが必要となるでしょう。こうした状況に対して、弊社も賃貸管理会社として機動的に対応していくことが求められていると言えるでしょう。
運営推進事業部 岡野明徳