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家賃保証会社による家賃滞納の追い出し条項は違法? 最高裁の判決はいかに

家賃滞納
2023/2/2

2022年12月に賃貸オーナーも関心があると思われる大きなニュースがありました。

内容としましては、賃貸住宅の借主が家賃を2カ月以上滞納するなどして連絡も取れない場合に、部屋を明け渡したとみなす家賃保証会社による「追い出し条項」の是非が争われた訴訟で、最高裁は12月12日、消費者契約法に基づいた条項は違法だとして、条項の使用差し止めを命じた。というもので、今回は家賃滞納者への「追い出し条項」の最高裁判決の内容をお話するとともに、今後の賃貸オーナー(貸主)の対応についてお伝えできればと思います。

 

・家賃保証会社の家賃滞納による「追い出し条項」違法判決について

今回の裁判は、家賃保証会社の保証契約書にある、家賃を滞納している借主の「追い出し条項」は一方的で違法と、大阪の適格消費者団体が家賃保証会社を訴えたものです。
一審は原告の適格消費者団体の訴えを認めたのに対し、二審の大阪高裁は家賃保証会社の主張を認め、最終的な判断は最高裁に持ち越されました。

最高裁は、条項の内容は違法との判断を下し、家賃保証会社は敗訴しました。
最高裁まで争われた条項の内容を要約すると次の通りになります。

1.入居者が家賃を3カ月以上滞納した場合、家賃保証会社は催告なしに賃貸契約を解除することができる

2.家賃保証会社は、借主が次の要件に当てはまるとき、借主がはっきりと異議を示さない場合は、部屋の明け渡しがあったとみなすことができる

【家賃を2カ月以上滞納しており、保証会社が合法的な手段を尽くしても借主と連絡が取れず、電気・ガス・水道の使用状況や郵便物の状況から、部屋を相当期間利用していないと認められ、客観的にみて借主が再び住む意思がないことが認められる場合。】

最高裁は上記1、2ともに違法と判断し、条項の差し止めを命じました。

 

・新聞見出しを鵜吞みにしてはダメ?

新聞各社も当日または翌日に、この裁判の判決について次の見出しで報道しておりました。

◎「家賃滞納で明け渡し」条項は違法 最高裁が初判断(日本経済新聞)
◎家賃滞納による明け渡しは「不当」…最高裁が「追い出し条項」で初判断(読売新聞)
◎家賃滞納に伴う「追い出し」条項は違法 最高裁が逆転判決(朝日新聞)
◎債務保証会社の「追い出し条項」は違法 家賃滞納巡り最高裁判決(毎日新聞)

見出しだけで判断してしまうと、賃貸オーナーにとっても厳しい判決と感じてしまいますが今回の判決文(令和4年12月12日 第一小法廷判決)全文を読むと、印象は全く変わってきます。

判決文では、判断の理由について次のように説明しています。

1については、契約を解除することができるのは、あくまでも契約の当事者である貸主であって、契約の当事者でもない家賃保証会社が契約解除できるとあるのは違法。
また、家賃滞納が3カ月に及んでも、催告もなしにいきなり解除することは適法ではない。

2については、賃貸借契約が終了していない場合でも、2の要件を満たしていれば明け渡しがあったとみなすとされるため無効。

つまり、最高裁の判断のポイントは、家賃滞納で契約解除ができないのではなく、そもそも当事者でもないものが一方的に契約解除をする点や、法的手続きをせず独自に明渡しがあったとする点です。
記事の本文には最高裁の判断理由をきちんと伝えているものもありましたが、理由について全く触れていない記事もあり、あやふやな情報もありました。

 

・家賃滞納に対する正しい契約解除の方法は?

実際に入居者が3カ月以上滞納しても、貸主は契約解除できないか?
もちろん、そんなことはありません。

一般的に、建物の賃貸借契約では家賃滞納が3カ月以上続くと契約解除が認められます。
賃貸借契約で貸主は借主に使用収益させる(部屋に住まわせる)約束、借主は毎月家賃を支払う約束をしますが、約束をやぶると「債務不履行」となり契約解除の理由となります。
しかし、多くの判例では借主が1~2カ月家賃を滞納しても契約解除はできないと判断されており、賃貸契約のような継続的な契約では、貸主と借主の信頼関係が破壊されない限り契約解除はできないとされ、1~2カ月の家賃滞納では信頼関係が破壊されたとまでは言えないからです。
しかし、家賃を3カ月以上滞納した場合は、その他の事情も考慮した上で、両者間の信頼関係が破壊されたとみなされることが一般的です。

ただし、3カ月以上の滞納があった場合でも、直ちに契約解除ができるわけではありません。
まずは、入居者に対して一定期間内に家賃を支払うよう「催告」をし、その期間内に家賃が支払われない場合にはじめて契約を解除することができます。

 

・『自力救済』について

自分の権利が侵害されている場合に、法の助けによらず、自力で侵害状態(家賃の滞納状態や用法違反の状態、契約解除後の不退去状態など)を解消しようとすることを『自力救済』といいます。

例えば、「借主が家賃を払わないから、賃貸借契約を解除したうえで、借主が部屋に入れないように鍵を交換してしまいたい。」というもので、結論から申し上げますと借主の承諾なく上記のような行動を取ることは、原則として許されていません。

借主が家賃を滞納している場合や賃貸借契約が有効に解除された後も借主が物件から退去しようとしないからといって、安易に鍵を交換することや、室内の残置物を処理するなどの違法な自力救済に及んではいけません。
違法な自力救済を回避し、適法に滞納家賃の回収を行うことや、物件からの退去を実現するためには、民事訴訟や強制執行といった法律に則った手続を実行する必要があります。

 

(まとめ)

今回の最高裁判決のポイントは、契約解除の手続き上の問題と、契約解除ができる当事者についての指摘です。

・家賃滞納は契約解除の理由になりますが、3カ月以上の滞納があっても催告が必要になります。
・賃貸契約を解除するのは、(貸主)であって、家賃保証会社ではない。
貸主も、報道だけをうのみにするのではなく、情報の源をしっかりと確認したうえで判断することが大切です。
いずれにしてもトラブルの解決方法はケース・バイ・ケースのため、不動産トラブルに強い管理会社に相談することをおすすめします。

弊社では、弁護士のご紹介も含めて、不動産に関するあらゆる角度からご相談が可能ですのでお気軽にお問い合わせください。

 

城東支店 アンサー事業部
原田 雅章

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